2015年度ODR 研究会
概要〜 年間計画
* 第1回 2015年8月19日(水)
「越境Eコマースの紛争解決に係る国際的議論と各国の取組み」OECD電子商取引消費者保護
内容〜 ガイドラインに始まる国際的議論を振り返り、現在の到達点について認識を共有する。
* 第2回 2015年10月21日(水)
内容〜
①「越境Eコマース・トラブル事例研究」
CCJ相談事例等を題材に、越境Eコマースの紛争にはどのような類型があり、
それぞれ、どのような紛争解決手段が適しているか、今後更に必要と思われる仕組み等について検討する。 第3回 2016年12月18日(金)
②「国内外のADR/ODR」
・損保ADRセンター
・国民生活センターADR
・シロガネサイバーポール
・クレジットカードのチャージバックルール
・海外のODRビジネス
* オープン・セミナー開催 2016年1月 20日(水)18:00-20:00
「UNCITRAL_ODR原則と越境Eコマースの紛争解決」
プログラム:
18:05-18:10 開会挨拶(じゃこネット理事長 タン・ミッシェル)
18:10-18:15 研究会中間報告
(じゃこネットECWG主査/ECネットワーク理事 沢田登志子)
18:15-18:40 『国民生活センター越境消費者センター(CCJ)の今後』
(独立行政法人国民生活センター理事長 松本恒雄様)
18:40-19:30 UNCITRAL_ODR
(立教大学法学部教授 早川吉尚様)
19:30-20:00 質疑応答
* 第4回 2016年2月24日(18:00-20:00)
内容〜
①ECOMネットショッピング紛争相談室の経験から
②国際的議論の現状
・ OECD電子商取引消費者保護ガイドライン改訂状
・ 国連消費者保護ガイドラインとCIの取り組み
・ EUのADR指令とODR規則
・ TPP協定における取扱い
③政策提言の方向性検討
「越境Eコマースの紛争解決に係る国際的議論と各国の取組み」OECD電子商取引消費者保護
内容〜 ガイドラインに始まる国際的議論を振り返り、現在の到達点について認識を共有する。
* 第2回 2015年10月21日(水)
内容〜
①「越境Eコマース・トラブル事例研究」
CCJ相談事例等を題材に、越境Eコマースの紛争にはどのような類型があり、
それぞれ、どのような紛争解決手段が適しているか、今後更に必要と思われる仕組み等について検討する。 第3回 2016年12月18日(金)
②「国内外のADR/ODR」
・損保ADRセンター
・国民生活センターADR
・シロガネサイバーポール
・クレジットカードのチャージバックルール
・海外のODRビジネス
* オープン・セミナー開催 2016年1月 20日(水)18:00-20:00
「UNCITRAL_ODR原則と越境Eコマースの紛争解決」
プログラム:
18:05-18:10 開会挨拶(じゃこネット理事長 タン・ミッシェル)
18:10-18:15 研究会中間報告
(じゃこネットECWG主査/ECネットワーク理事 沢田登志子)
18:15-18:40 『国民生活センター越境消費者センター(CCJ)の今後』
(独立行政法人国民生活センター理事長 松本恒雄様)
18:40-19:30 UNCITRAL_ODR
(立教大学法学部教授 早川吉尚様)
19:30-20:00 質疑応答
* 第4回 2016年2月24日(18:00-20:00)
内容〜
①ECOMネットショッピング紛争相談室の経験から
②国際的議論の現状
・ OECD電子商取引消費者保護ガイドライン改訂状
・ 国連消費者保護ガイドラインとCIの取り組み
・ EUのADR指令とODR規則
・ TPP協定における取扱い
③政策提言の方向性検討
開催報告
第1回 開催報告
8月19日(水)18:00〜20:00、中央区女性センター(ブーケ21)研修室において、第1回越境Eコマースのトラブル解決に関する研究会(ODR研究会)を開催しました。当日は、じゃこネット会員7名に加え、外部有識者、国民生活センター、消費者庁、経済産業省からもオブザーバ参加を得て、総勢20名の参加がありました。
理事長ミッシェル・タンの挨拶に始まり、事務局を担当する沢田より、研究会の趣旨説明に続いて、これまでの国際的議論の流れを説明いたしました。
要旨は次の通りです。
1. OECD消費者保護ガイドラインからADR実験へ(1997〜2004頃)
越境Eコマースに関する消費者保護の議論は、当初は準拠法と裁判管轄問題に焦点が当たっていたが、各国の法の違いを乗り越える現実的な紛争解決手段としてADR(裁判外紛争解決)に期待が集まり、OECDガイドラインに盛り込まれるとともに、民間団体による提言なども出された。 これを背景として、各国でADRの制度整備が試みられ、国際的な実験プロジェクトも行われた。
2. 二国間ADR連携からODRへ(2000〜2005頃)
越境Eコマースの実際の紛争を解決する試みとして、二国間のADR連携が進められ、日米間では一定の成果を挙げていた。 但し上記は人手がかかることが難点とされ、米国では、政府予算で、苦情を自動的に相手方に伝達するプラットフォーム・システムが開発された。米英間で実証実験が行われたが、蓋を開けてみると詐欺事案が多く、自主的な解決を目指すADRの実験としては、あまり成功したとは言えなかった。 他方、オークションサイトなどマーケットプレイス上で自動的・大量に紛争を処理する仕組みが民間ベースで開発され、米国では、ODRは実用化・商用化の段階に入っていた。
3. 欧州ECC-NET(2005〜)
ADR連携などの試みを経た後、欧州委員会主導で本格的な越境相談ネットワークが構築された。加盟各国に設置されたECC(欧州消費者センター)が相互に連携し、域内の消費者の苦情を処理する仕組みである。
4. ICA-Net(国際消費者相談ネットワーク)構想(2007〜2009)
ECC-NETをモデルとし、アジアを中心とする多国間越境相談ネットワークを構築することを日本が提案し、経済産業省の支援のもと、ERIA(東アジア・ASEAN経済研究センター)の研究プロジェクトとして実証実験を行い、結果を政策提言にまとめた。
5. 消費者庁越境消費者センターから国民生活センター越境消費者センターへ(2011〜)
2009年に消費者庁が発足し、インターネット消費者取引研究会の取りまとめを受けて、消費者庁越境消費者センター(CCJ)が設立された。4年間の実証実験の後、2015年6月、国民生活センターの恒常的事業として再スタートしている。
本研究会には、消費生活センターや企業のお客様相談室で消費者の苦情に対応されている方、研究者として海外事情調査等に携わっている方、行政庁や非営利団体等で越境取引問題を担当されている方など、様々な立場の方々にご参加いただきましたので、自己紹介を兼ねて、それぞれの関心事項についてひと言ずつ述べていただきました。
ADRの充実は社会全体の紛争解決コストの削減に繋がると期待される一方、ADRを運営するコストを誰がどのように負担するかが問題になること、オランダでは政府と民間が共同で資金負担するADRが成功し、逆に裁判の空洞化が問題となっていること、悪質事業者対策としては執行が重要であり、悪質ではないグローバル企業に対しても実効的な施策が必要であること等々、興味深い切り口が挙げられました。
第2回研究会は、10月21日(水)を予定しております。CCJ相談事例等を題材に、越境Eコマースの紛争にはどのような類型があり、それぞれ、どのような紛争解決手段が適しているか、今後更に必要と思われる仕組み等について検討する予定です。
本研究会は、この分野に関心や知見をお持ちの方々に是非ご参加いただきたいと思っております。但し参加にあたっては、原則として、じゃこネットにご入会いただく必要がございます(2015年度は入会金なし、年会費3,000円)。
研究会への参加ご希望の方は、以下アドレスにメールでお知らせください。担当の沢田より、追ってメールでご案内をお送りいたします。
第2回 開催報告
2015年10月21日(水)18:00〜20:00、中央区女性センター(ブーケ21)研修室において、第2回越境Eコマースのトラブル解決に関する研究会(ODR研究会)を開催しました。
今回は、じゃこネット会員16名に加え、国民生活センター及び越境消費者センター(CCJ)、消費者庁、経済産業省の関係部署から8名のオブザーバ参加があり、総勢24名となりました。
前回(8/19)は、国境を超えるEコマースの紛争解決について、これまで国際的にどのような議論がされてきたか、その流れを振り返りました。
今回は、最近の国内の動きを深堀りするとともに、実際に起こっているトラブルの情報を共有し、この分野のODRに必要な要素について検討を行いました。概要は以下の通りです。
1. 越境ECの環境整備に向けた経済産業省の取組
経産省情報経済課の北元課長補佐よりご紹介いただきました。様々な越境EC関連施策の中で、近年は、米国・中国やASEAN諸国の越境EC市場動向の調査を実施したほか、制度的な課題への対応として、国外事業者からの電子的サービス提供に対する消費税課税、経済連携協定を通じたビジネス障壁の除去等に取り組まれています。消費者にも大いに関係する実務上の課題として、特にASEAN諸国向けの越境ECでは「言語」に関するソリューションが求められているということです。
*本報告の内容は、2015年11月1日発行「流通情報」誌の越境EC特集に掲載されます。
2. 越境ECのトラブル事例(CCJに寄せられた相談事例より)
CCJ事務局であるベリトランス株式会社の矢井様からご紹介いただきました。2011年の設立後、CCJでは毎年4,000件ほどの相談をオンラインで受け付け、翻訳支援や交渉アドバイス、海外機関との連携等の解決支援を行っています。もちろん解決に至った事例も多くあります。
CCJの実績につきましては、こちらの報告書をご参照ください。
http://www.cb-ccj.caa.go.jp
今回は、敢えて「解決に至らなかった事例」に着目し、10件ほど実事例をご紹介いただきました。
相談機関としての限界を感じるケースとして、「事業者が誠実な対応をしない」「事業者のサービスに問題があり損害賠償を求める」「感情的にこじれてしまった」「日本法が適用されて無効となるはずだが事業者が応じない」「複数の事業者が関与し責任の所在が不明確」「双方の主張が平行線」「事実認定が必要」などのパターンが浮かび上がっています。
「相談」のクオリティを上げること(例えば弁護士の関与)で対応できる内容もあるかも知れませんが、相談者に味方として寄り添う「相談」とは異なる、「第三者」という機能が必要なケースがあるのではないかというのが本研究会のテーマです。
今後、制度設計を検討するにあたり具体的事例を念頭におく必要が出てくると思われますが、今回はその頭出しという位置づけです。
3. 2005年OECDワークショップ「国際EC市場における消費者救済とADR」
2005年4月にワシントンで開催されたOECD主催のワークショップの概要を振り返りました。当時ワシントン在住であった上沼弁護士にレポートしていただいたものです。これから越境ECがますます盛んになる中で発生が予想される消費者紛争への対処方法や課題について、各国各機関から様々な報告がされ、2007年のOECDガイドライン(http://www.oecd.org/sti/consumer/36456184.pdf)に繋がりました。
ワークショップでは、いわゆるADRだけではなく、オンブズマン制度やクレジットカードのチャージバック・ルール、少額訴訟等も紹介されています。本研究会の質疑では、オーストラリアがADRに積極的であることに注目が集まりました。
それから10年。越境ECは隆盛を極めていますが、基本的な問題はあまり変わっていないようです。ECC-NetやCCJなど成功例はあるものの、全ての場面において消費者救済が十分に行われているとは言い難い状況かと思います。
4. 日本のADRの現状と越境ECトラブルへの適用可能性
次に、ECを少し離れ、日本のADRの現状について見てみました。司法型・行政型・民間型と様々なADRがあり、2007年には「裁判外紛争解決の利用の促進に関する法律」(ADR法)が施行されて、ADRという名称の認知度は向上しました。しかし、「越境」「EC」「消費者」という条件を満たすADRは未だ存在しません。
どんなADRであれば国境を超えるEコマースの消費者トラブルに対応できるのか。そこに求められる要素について、沢田から次の8点を提示しました。
1) 利用者にとって低コスト
2) 簡易・迅速な手続き
3) 多言語対応(最低限、英語)
4) 相手方をテーブルに着かせる工夫
5) 専門性(インターネット取引、関連技術、法律、、)
6) プロセスと結論の納得感
7) 事実上の執行力
8) 弱者支援の視点と中立性のバランス
もちろんこれは仮説ですので、今後、議論が深まるに伴い修正していく前提ですが、ADR法の認証基準(経理的基礎や弁護士の関与)とは少し異なる要素が含まれていることにお気づきいただけると思います。今後、ISO10003や国際ガイドライン等とも比較してみたいと考えております。
12月に予定する第3回研究会では、国内に現在あるADRや、これまでのODR類似の取組みなど、参加メンバーがそれぞれ関わっているものを紹介していただきます。越境ECに特化したADRの設計を検討するにあたり、既存の仕組みから取り入れられる部分があれば是非学びたい、という趣旨です。
1月には、立教大学の早川吉尚教授をお迎えして、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)ODR作業部会の検討状況をお話いただきます。オープンセミナーとしますので、非会員の方も是非ご参加ください。
その後の研究会では、国際機関での最近の議論状況やEUの法制度について勉強するとともに、経済連携協定など通商問題の観点からも検討を行い、政策提言に繋げていきたいと考えております。
*本研究会は、この分野に関心や知見をお持ちの方々に是非ご参加いただきたいと思っております。但し参加にあたっては、原則として、じゃこネットにご入会いただく必要がございます(2015年度は入会金なし、年会費3,000円)。
研究会への参加ご希望の方は、以下アドレスにメールでお知らせください。担当の沢田より、追ってメールでご案内をお送りいたします。
第3回 開催報告
2015年12月18日(木)18:30〜20:30、中央区京橋プラザ区民館1号室において、じゃこネット会員15名とオブザーバ7名の参加を得て、第3回越境Eコマースのトラブル解決に関する研究会(ODR研究会)を開催しました。
今回は、越境ECに特化したADRを考える際の参考とするため、現在稼働している国内(他分野)のADR、これまでのODR的な取組み、海外で実用化されているODRなどにつきメンバーからそれぞれ報告し、情報を共有しました。
概要は以下の通りです。
1. そんぽADRセンターについて
損保ジャパン日本興亜株式会社の土田様より、そんぽADRセンターに関し、実績等のデータをご紹介いただいた上で、前回研究会で提示した「越境ODRに必要と思われる要素」8点に沿って、概要をご説明いただきました。
業界団体による運営であることから、コスト、専門性、事業者による応諾と結果の受諾については問題なく、課題は「一般の人にとっては同センターの取扱範囲がややわかりにくいかも」ということとお聞きしました。外国語対応を始める損保会社も出てきたとのことで、国内でも「越境」を意識する必要を感じました。
2. クレジットカードのチャージバックについて
株式会社ジェーシービーの関崎様より、チャージバックの流れや被害回復状況についてご紹介いただきました。チャージバックは、請求に問題があった際に巻き戻すというクレジットカード会社間のルールであり、もちろんADRではないのですが、最後は「お金が動く」という点で、事由に該当する場合は、消費者から見ても頼りになる仕組みです。
他方、チャージバックの申請は英文で行うため、イシュア(消費者と契約するカード発行会社)にとっては負担になります。ODRとの連携によって、この点を解決できないかという問題提起をいただきました。
3. シロガネ・サイバーポールのODR実験
2001年に任意団体として設立され、その後NPO法人の認証を受けたシロガネ・サイバーポールの活動について、当初からのメンバーである上沼弁護士からご紹介いただきました。弁護士による無料メール相談が活動の中心でしたが、負担の偏りやボランティアとしての運営の限界等の課題があったそうです。
情報ネットワーク法学会と共同で2003年に実施したODR実験では、主に個人間取引の紛争についてあっせんを行い、6件の和解が成立しました。そこからの教訓として、「当事者の解決インセンティブ」「資金手当」の必要性についてお話いただきました。
4. 海外で実用化されているODR
株式会社ODR Room Networkの万代CEOより、2002年から毎年開催されているODRフォーラムの模様や、実際にビジネスとして運営されているODRの動画などをご紹介いただきました。
保険分野で利用されているBlind Bidding(両当事者が要求金額を入力するとシステム上で和解金額案が提示される仕組み)、複数言語の使用が可能なテキストベースのODRプラットフォームなど、参考になる先行例が海外にはいろいろあることがわかりました。
参加者からは、オンラインのみのコミュニケーションへの不安やトラストマークモデルの収益性について等々、活発な質問が寄せられました。
5. 国民生活センター紛争解決委員会の概要とその特質及び課題
国民生活センター松本理事長よりご紹介いただきました。2009年の制度創設以降、1,000件近くの事案(「重要消費者紛争」)を取り扱い、迅速・低コスト(消費者にとって)な手続きを実現されています。
「実質的な中立・公平性」を重視し、申請書の作成支援や相手方事業者の調査など、事務局が積極的に消費者に対し後見的な役割を果たすのが大きな特質と言えそうです。手続きへの応諾や結果の受諾は任意ですが、結果概要や事業者名の公表という、行政型ADRならではの仕組みもあります。
今後の課題は消費生活センターの相談・あっせんや裁判との連続性とのことです。制度上の縛りはないものの、手続きは「対面」が原則なので、海外所在の事業者を相手方とするケース(オンラインでの紛争解決)については、また別の制度設計が必要となると思われます。
1月20日には、立教大学の早川吉尚教授をお迎えして、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)ODR作業部会の検討状況をお話いただくオープンセミナーを開催いたします。
その後の研究会では、OECD、UN、CI等での最近の議論状況やEUの法制度、TPP協定について勉強し、政策提言に繋げていきたいと考えております。
第4回 開催報告
2016年2月24日(水)18:30〜20:30、中央区八丁堀区民館6号室において、第4回越境Eコマースのトラブル解決に関する研究会(ODR研究会)を開催し、じゃこネット会員15名とオブザーバ6名が参加しました。
前回の続きとして、ECOMネットショッピング紛争相談室に関する報告が行われた後、様々な国際機関での議論状況について情報を共有しました。
概要は以下の通りです。
1. ECOMネットショッピング紛争相談室の経験から
一般社団法人ECネットワークの原田理事より、同法人の前身組織であるECOM(次世代電子商取引推進協議会)ネットショッピング紛争相談室の取組みについて報告いたしました。インターネット関連の相談をオンラインで受け付け、助言を行うとともに、専門家による調停や、米国BBBとの連携協定による越境トラブル解決支援などの斬新な試みを行った実証実験です。3年間のノウハウをまとめた相談マニュアルを含め、報告書が公開されています。
http://archives.jipdec.or.jp/index.php/index/pdfSearch
この実験を通じ、メール相談の有効性や、第三者が入ることによる解決率向上が実証され、EコマースとODRの親和性が確認されたと言えます。他方、本プロジェクトは経済産業省の予算で全費用が賄われていましたが、行政から独立してODRを運営する場合は、コスト負担が最大の課題となると思われます。
2. 改定国連消費者保護ガイドラインについて
じゃこネットのタン理事長から、2015年12月15日に採択された改定国連消費者保護ガイドラインについてご紹介いただきました。同ガイドラインは、Consumers Internationalの働きかけによって1985年に策定され、1997年に一度改定されています。
今回は、途上国にも普及しつつあるEコマースを念頭に置いた改正で、新たに「Eコマース」というタイトルの章が設けられ、「他の取引形態よりも保護レベルが劣ることのないように」といった原則が書き込まれました。
また、「救済」という章のタイトルが「救済と紛争解決」に変更され、行政や司法による紛争解決と並び、越境取引にも適用可能なADRを通じた消費者苦情への対応が推奨されています。追って国連のウェブサイトで全文が公開されるものと思います。
3. OECD電子商取引消費者保護ガイドラインの改定状況について
消費者庁消費者政策課の清木様からご紹介いただきました。1999年に策定され、2009年から改定が検討されてきたとのこと、今年3月に開催されるOECD消費者政策委員会で承認される見込みであるものの、公表時期は未定とのことです。
改定版では、従来の財・サービスに加え、デジタル・コンテンツも対象とされ、広告やマーケティングに関する記載がアップデートされました。国連ガイドライン同様、拘束力はありませんが、本研究会との関連では、「国際協力(支払保護のためのルールの調和)」や「(ODRを含む)ADRへのアクセス」といった項目が参考になりそうです。
4. TPP協定と越境EC
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(&じゃこネット)国松様から、
TPP(環太平洋パートナーシップ)協定におけるEコマース関連の規定について
ご紹介いただきました。
第16章「競争政策」の中にも「消費者の保護」という条項がありますが、第14章「電子商取引章」の中に別途「オンラインの消費者保護」という条項が置かれ、既存の経済連携協定よりも踏み込んだ内容(詐欺的・欺瞞的な商業活動を禁止するための法律を制定すべき)が規定されています。このほか、国境を越える(個人)情報の移転や迷惑メールに関する条項など、国内法との関係で興味深い論点も多く含まれています。
2011年に発足した国際貿易・投資に関する有識者会議「E15イニシアティブ」のデジタル・エコノミー作業部会が取りまとめた提言書においても、日本の提案により、紛争解決メカニズムの重要性を強調する文言が含まれたとのことです。
TPP協定「電子商取引章」の概要は、こちらに掲載されています。
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/naiyou/pdf/chapters/ch14_1.pdf
条文の訳文はこちらに。http://www.cas.go.jp/jp/tpp/naiyou/pdf/text_yakubun/160308_yakubun_14.pdf
5. EUのADR指令、ODR規則について
じゃこネット西岡様より、2013年に採択されたEUのADR指令、ODR規則の最新動向について、これまでのEUでの検討やその背景を含めて、ご紹介いただきました。
ADR指令は、オンライン、オフラインを問わず、消費者のADRへのアクセス権を保証するものです。EU加盟国は、品質要件を満たしたADR手続きを提供する機関のリストを作成することとされ、欧州委員会のADR専門家グループがその推進をサポートしています。
また、ODR規則及び2015年に採択された消費者ODR実施規則に基づき、欧州委員会はODRプラットフォームを開設しました。消費者がオンラインで苦情を申し立てると、適切なADR機関にその内容が送信される仕組みです。この2月から運用が開始されています。
https://webgate.ec.europa.eu/odr/main/?event=main.home.show
EU域内の消費者は、23の公式言語で申し立てが可能で、プラットフォームが翻訳サービスを提供します。現在、17加盟国の117のADR機関がプラットフォームにリンクしているそうです。
欧州委員会が、紛争解決コストの節減や実質的な消費者救済の可能性という観点でADRに着目し、EUの競争力向上を目的として、これらの取り組みを主導してきたという経緯がよく理解できました。
本研究会では、これまで4回の研究会で共有された情報や知見をもとに、今年度の取りまとめをいたします。越境Eコマースに関わる消費者・事業者にとって有用なODRとはどのようなものか、いくつかの選択肢や視点を提示し、日本政府に対し、本格的な検討を始めることを促す内容とできればと考えております。
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