ODRとは?
ODRは、Online Dispute Resolution(オンライン紛争解決)の頭文字である。紛争解決といえば、裁判、裁判所が一番に思い浮かぶ。裁判手続は、どの国でもハードルが高い、時間かかる、公開されてしまうということが共通認識だろう。近年では、裁判外紛争解決(ADR)も普及しつつあるが、これら紛争解決へのアクセスをITによって簡便にしてアクセスしやすくしてハードルを下げることができるのではないかという動きが進みつつある。
初期のODRに関する文献「Online Dispute Resolution」(Ethan Katsh = Janet Rifkin 『Online Dispute Resolution Resolving Conflict in Cyber Space』 JOSSEY-BASS A Wiley Company San Francisco, 2001 74頁)では、“司法手続は信頼性・専門性・利便性のバランスが重要で、これまでの司法手続は利便性がかけているとして、ODRはこれを補うものである(要訳)”と位置付けている。
初期のODRに関する文献「Online Dispute Resolution」(Ethan Katsh = Janet Rifkin 『Online Dispute Resolution Resolving Conflict in Cyber Space』 JOSSEY-BASS A Wiley Company San Francisco, 2001 74頁)では、“司法手続は信頼性・専門性・利便性のバランスが重要で、これまでの司法手続は利便性がかけているとして、ODRはこれを補うものである(要訳)”と位置付けている。
歴史的には、1990年代前半から、インターネットの普及とともに、オンライン上で発生した紛争(当初は、性別詐称や炎上事件など)の解決手段として注目され、様々な試行が開始された。emailの普及とともにチェーンレターによるシステムトラブルやオンライン上フォーラムでの紛争(いわゆる炎上事件)などトランザクションに関わる紛争が始まる。未だインターネットは、軍需と大学による利用に制限され、利用規約には商業利用の禁止が記載されていた。1994年、Ethan Katsh教授[1]らが、ListServe[2]にてDispute Resolutionについてのディスカッション主催。性別詐称による電子の恋人事件や仮想空間での暴力(暴言)事件が発生し、米国FTCが初めてオンライン詐欺事件を申し立てた。1995年から1998年には、実験的なODR組織による紛争解決オンラインシステムの検討が開始され、1996年には、ODRを推進するNCAIR(National Center for Automated Information Research)が、ODRプロジェクトへの出資を決定。Virtual Magistrade[3]設立、Online Ombuds Office設立、メリーランド大学民事仲裁プロジェクト、モントリオール大学CyberTrubunalプロジェクトなどが実験的に行われ、商業的システムとしてCyber Settle, Smart Settleなどのブライドビディングシステム、保険会社による匿名入札システム、商標権者とドメイン名所有者によるオンライン仲裁、マーケットプレイスでの紛争解決のSquare Trade社、オークションeBay のDispute Resolutionなどの企業により実務的なシステムが開発され実用的な普及に繋がっていった。
ODRは、ADR(Alternative Dispute Resolution)のオンラインシステム版(オンラインADR)とするのがわかりやすいが、実際にODRとして試験されたり稼働したりしているツールやシステムを見るとオンライン技術に限定されず、インターネットの時代においては、オンラインはむしろ当たり前の技術であり、「紛争解決にオンライン技術を含めたテクノロジーを利用・活用したもの」と言うべきだろう。これらは様々な形で既に実用化が始まっているといえる。TV会議の利用は、既存のADRや裁判のプロセスで、「関係者の証言を遠隔地から行う=距離と時間の制限を取り払う」想像しやすくわかりやすい例であるが、これは一側面に過ぎない。
例えば、申し立ての段階では、Webフォームを利用したオンラインシステムによる申し立てがあり、当事者や中立的第三者との情報交換は同じくWebシステムや電子メールで行われる(AAAなど)。こうした紛争解決機関内では、紛争の情報を共有し、各過程のプロセスを管理するデータベースシステムが使われている。
Mediateme.com[4]では、調停人候補者自身が、専門分野、取り扱い分野、得意分野、料金、さらには、対応可能な日時までを更新できるデータベースで公開され、紛争の申し立て、相手方への連絡、主張の交換、調停人の選択、期日設定などのスケジュール管理、TV会議による調停人と当事者の3者協議、裁定の通知、調停人への支払いなどが1つのシステム上で行える。
欧州では、複数言語を扱えるODR、プロセス管理、相互コミュニケーションシステムも開発された。(juripax)[5]
あるいは、保険金の交渉において双方がシステムに提示金額、妥協可能金額や条件を登録しておきシステムに自動交渉させる仕組みも運用されている。
消費者紛争の分野では、特に越境取引によるトラブル解決にODRが普及してきている。最初にその効果を実現したのは、C2C取引サイトeBayでResolution Centerとして現在では年間6千万件を処理しているとされる。また欧州では、ADR指令、ODR規則[6]により各ECサイトはODRの提供をすることが義務化されている。
日本でのODRは、シロガネサイバーポール[7]などの実験的な取り組みを経て、国民生活センターによる越境消費者センター[8]が「オンラインでの苦情処理」を開始し、提携国(2018年現在20カ国)と連携し年間数千件の苦情処理を行なっている。さらに、2018年より「司法のIT化(電子裁判手続)」[9]が議論され、ADR関連組織[10]や大学[11]でもODRやIT化をテーマとして扱い始めた。
国際的には、国連UNCITRALのWGでODRの共通ルールが議論され、テクニカルノートとして公開された。その後、APECでは協力の枠組みとモデル手続きからなるAPEC Collaborative Framework[12]が2019年初頭に採択される予定となっており、各国がリスト化したODR機関により全てのコミュニケーションはオンライン上で行われる仕組みの導入が議論される予定である。(当初はB2Bのみ)。
[1] 前出「Online Dispute Resolution」の共同執筆者。ODRの父とされる。
[2] 1986年に運営開始された最初のメーリングリストアプリケーション。
[3] https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/1353485896844060
[4] https://www.youtube.com/watch?v=QD9C51EWN0k
[5] Juripax オランダ http://www.juripax.com/ その後、Modria社に買収された。
[6] EUのADR指令、ODR規則 2016.2.24 じゃこネットODR研究会資料14
[7] シロガネ・サイバーポールとは何だったかhttp://myspace.private.coocan.jp/odr/2015/2015_10.pdf
[8] 国民生活センター越境消費者センター https://ccj.kokusen.go.jp/
[9] https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/index.html
[10] https://japan-adr.or.jp/katsudohokoku20180713.html
[11] https://www.hit-u.ac.jp/hq-mag/project_report/313_20180530/
[12] https://aimp2.apec.org/sites/PDB/Lists/Proposals/DispForm.aspx?ID=2265
ODRは、ADR(Alternative Dispute Resolution)のオンラインシステム版(オンラインADR)とするのがわかりやすいが、実際にODRとして試験されたり稼働したりしているツールやシステムを見るとオンライン技術に限定されず、インターネットの時代においては、オンラインはむしろ当たり前の技術であり、「紛争解決にオンライン技術を含めたテクノロジーを利用・活用したもの」と言うべきだろう。これらは様々な形で既に実用化が始まっているといえる。TV会議の利用は、既存のADRや裁判のプロセスで、「関係者の証言を遠隔地から行う=距離と時間の制限を取り払う」想像しやすくわかりやすい例であるが、これは一側面に過ぎない。
例えば、申し立ての段階では、Webフォームを利用したオンラインシステムによる申し立てがあり、当事者や中立的第三者との情報交換は同じくWebシステムや電子メールで行われる(AAAなど)。こうした紛争解決機関内では、紛争の情報を共有し、各過程のプロセスを管理するデータベースシステムが使われている。
Mediateme.com[4]では、調停人候補者自身が、専門分野、取り扱い分野、得意分野、料金、さらには、対応可能な日時までを更新できるデータベースで公開され、紛争の申し立て、相手方への連絡、主張の交換、調停人の選択、期日設定などのスケジュール管理、TV会議による調停人と当事者の3者協議、裁定の通知、調停人への支払いなどが1つのシステム上で行える。
欧州では、複数言語を扱えるODR、プロセス管理、相互コミュニケーションシステムも開発された。(juripax)[5]
あるいは、保険金の交渉において双方がシステムに提示金額、妥協可能金額や条件を登録しておきシステムに自動交渉させる仕組みも運用されている。
消費者紛争の分野では、特に越境取引によるトラブル解決にODRが普及してきている。最初にその効果を実現したのは、C2C取引サイトeBayでResolution Centerとして現在では年間6千万件を処理しているとされる。また欧州では、ADR指令、ODR規則[6]により各ECサイトはODRの提供をすることが義務化されている。
日本でのODRは、シロガネサイバーポール[7]などの実験的な取り組みを経て、国民生活センターによる越境消費者センター[8]が「オンラインでの苦情処理」を開始し、提携国(2018年現在20カ国)と連携し年間数千件の苦情処理を行なっている。さらに、2018年より「司法のIT化(電子裁判手続)」[9]が議論され、ADR関連組織[10]や大学[11]でもODRやIT化をテーマとして扱い始めた。
国際的には、国連UNCITRALのWGでODRの共通ルールが議論され、テクニカルノートとして公開された。その後、APECでは協力の枠組みとモデル手続きからなるAPEC Collaborative Framework[12]が2019年初頭に採択される予定となっており、各国がリスト化したODR機関により全てのコミュニケーションはオンライン上で行われる仕組みの導入が議論される予定である。(当初はB2Bのみ)。
[1] 前出「Online Dispute Resolution」の共同執筆者。ODRの父とされる。
[2] 1986年に運営開始された最初のメーリングリストアプリケーション。
[3] https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/1353485896844060
[4] https://www.youtube.com/watch?v=QD9C51EWN0k
[5] Juripax オランダ http://www.juripax.com/ その後、Modria社に買収された。
[6] EUのADR指令、ODR規則 2016.2.24 じゃこネットODR研究会資料14
[7] シロガネ・サイバーポールとは何だったかhttp://myspace.private.coocan.jp/odr/2015/2015_10.pdf
[8] 国民生活センター越境消費者センター https://ccj.kokusen.go.jp/
[9] https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/index.html
[10] https://japan-adr.or.jp/katsudohokoku20180713.html
[11] https://www.hit-u.ac.jp/hq-mag/project_report/313_20180530/
[12] https://aimp2.apec.org/sites/PDB/Lists/Proposals/DispForm.aspx?ID=2265