前回(2022年7月30日掲載)は世界各国で採用されているFOPL(包装前面表示、Front of Pack Labelling)の概要と、EUにおいて、その統一の動きがあることを紹介しました。今回はフランスでのNutri-Scoreの推奨表示化と消費者団体の対応を取り上げます。さて、EUは統一の方向性は公表したものの、加盟各国に異なるFOPLが存在している中、統一の具体的な内容については現時点では結論を出していません。そのような状況下でEU統一FOPLの最有力候補となりつつあるのが、フランスのNutri-Scoreです。
1. フランスはNutri-Scoreを推奨表示としてのFOPLに制定
フランス政府は、義務表示による包装容器裏面の細かい数値が書かれた表形式だけでは、移民など、フランス語の理解が困難な人々にとっては、より分かり易い表示を包装容器前面に表示すべきであるとの問題意識の下、2013年、Nutri-Scoreを国民栄養健康プログラムとして提案しました。
これは食品中の栄養成分を、摂取を推奨される栄養素(ポジティブ)と、摂取制限を推奨される栄養素(ネガティブ)に分類し、それら成分の、食品100g中での含有量で評価した結果を示すものです。ポジティブな栄養素としては果物、野菜、マメ科植物、ナッツ、食物繊維、蛋白質が、ネガティブな栄養素としては、熱量(カロリー)、単糖類(砂糖など)、飽和脂肪酸、食塩が選定され、それぞれの含有量に従って、ポジティブな栄養素はプラス点、ネガティブな栄養素はマイナス点として算出し、その合計点でスコア化されA、B、C、D、Eの5段階で、図のように緑、薄緑、黄、橙、赤に色分けされ表示されます(注1)。
2.フランスの消費者団体UFC-Que ChoisirはNutri-Scoreを評価
フランス国内の140団体を傘下に持つ、フランスを代表する消費者団体UFC-Que Choisirは
2014年、このNutri-Score支持を決定し、Nutri-Score制度化を要請する首相宛の請願書への署名を募集(注2)しました。さらに、300超の加工食品がどのような表示となるか、独自に調査した結果を中心に、Nutri-Scoreの必要性、優位性をまとめた意見書を公表しました(注3)。
この意見書では先ず、フランスでの飽和脂肪酸、糖分、塩分が多すぎる食事の現状と、その対策としてEU政府が100g当りの主要栄養組成の義務表示にしたが、82%の消費者がその表示を正しく読めていないとの調査結果等、新たな表示の必要性についてなどの問題を提起しました。
一方、食品の栄養成分の表示方法については、INRA(フランス国立農業研究所)がNutri-Scoreの公表を2年遡る2011年、一般大衆が理解しやすい栄養表示についての調査結果として、以下の基準を公表しています。
-全ての栄養特性を要約した単一の情報が、栄養素ごとの情報より効果的である。
-数字を提供するだけの表示より、最高評価と最低評価が一目で判別できるカラー表示が効果的である。
-全ての食品に共通の評価基準は各食品カテゴリーに固有の基準より効果的である。
これは、フランス保健省の依頼を受けて実施された研究ですが、Nutri-Scoreはこの理論に基づいて設計されています。
加えて、UFC-Que Choisirが実施した、303種の加工食品に関する調査結果を報告し、カラー表示システムでは、大多数の製品が平均的な評価となったり、あるいは、緑や赤ばかりと極端な評価となるリスクがありますが、調査の結果、全サンプルでの色の分布は緑、薄緑、黄、橙、赤がそれぞれ16%、27%、20%、17%、19%と良好な分布となったこと。また、ある食品群は高評価ばかり、他の食品群は低評価ばかりとなるリスクもありますが、全ての食品群で少なくとも、2つの異なる色で表示され、食品群間の評価だけでなく、食品群内の評価にも使用できると記しています。
UFC-Que Choisirを始めとする消費者団体から大きな支持を得た結果、Nutri-Scoreは2017年、公衆衛生局によりフランスの唯一の公式のFOPLとして承認されました。食品企業のNutri-Scoreの採用は任意ですが、FOPLを実施する場合にはNutri-Scoreを採用しなければならず、また自社製品のすべてに掲載する必要があり、良い評価の商品だけに表示することは出来ません。
欧州の32ヶ国46消費者団体の連合体で、UFC-Que Choisirも加盟している、ベルギーのブリュッセルに本部を持つBEUC(Bureau Européen des Unions de Consommateurs:欧州消費者機構)も、EU共通FOPL 導入論議開始当時からNutri-Score制度を支持しています(注4)。
3. 国際癌研究機関がNutri-Scoreを評価
2021年9月、国際癌研究機関(International Agency for Research Cancer、IARC)は、欧州における多様な人々を対象にコホート研究(疾病要因と発症の関連を調べる観察研究)の結果、Nutri-Scoreの低い食品を多く消費する人々は、癌のリスクが高く、同様に全般的および癌関連の死亡率が高いことを報告しています。そして、この調査結果は、癌やその他の慢性疾患を予防するための戦略の基礎として、Nutri-Scoreによって食品の栄養価を評価することの有効性を裏付けているとしています(注5)。
次回(3)では、フランスでのNutri-Scoreの義務表示化の動きと事業者の反応、およびEUでの前面表示統一への動きについて紹介します。
注:
1. Nutri-Score : The front of pack nutrition labelling scheme recommended in France, 2018, European Commission
2. Nutrition - Pétition pour un étiquetage simplifié - Actualité - UFC-Que Choisir
3. Etiquetage nutritionnel simplifié, Un antidote simple et efficace contre le marketing alimentaire, 2015, UFC-Que choisir
4. Front-of-pack nutrition labelling, BEUC Position, 2019, BEUC
5. The Nutri-Score: A Science-Based Front-of-Pack Nutrition Label, 2019, IARC
南澤 陽一 (消費者ネットジャパン理事 )
1. フランスはNutri-Scoreを推奨表示としてのFOPLに制定
フランス政府は、義務表示による包装容器裏面の細かい数値が書かれた表形式だけでは、移民など、フランス語の理解が困難な人々にとっては、より分かり易い表示を包装容器前面に表示すべきであるとの問題意識の下、2013年、Nutri-Scoreを国民栄養健康プログラムとして提案しました。
これは食品中の栄養成分を、摂取を推奨される栄養素(ポジティブ)と、摂取制限を推奨される栄養素(ネガティブ)に分類し、それら成分の、食品100g中での含有量で評価した結果を示すものです。ポジティブな栄養素としては果物、野菜、マメ科植物、ナッツ、食物繊維、蛋白質が、ネガティブな栄養素としては、熱量(カロリー)、単糖類(砂糖など)、飽和脂肪酸、食塩が選定され、それぞれの含有量に従って、ポジティブな栄養素はプラス点、ネガティブな栄養素はマイナス点として算出し、その合計点でスコア化されA、B、C、D、Eの5段階で、図のように緑、薄緑、黄、橙、赤に色分けされ表示されます(注1)。
2.フランスの消費者団体UFC-Que ChoisirはNutri-Scoreを評価
フランス国内の140団体を傘下に持つ、フランスを代表する消費者団体UFC-Que Choisirは
2014年、このNutri-Score支持を決定し、Nutri-Score制度化を要請する首相宛の請願書への署名を募集(注2)しました。さらに、300超の加工食品がどのような表示となるか、独自に調査した結果を中心に、Nutri-Scoreの必要性、優位性をまとめた意見書を公表しました(注3)。
この意見書では先ず、フランスでの飽和脂肪酸、糖分、塩分が多すぎる食事の現状と、その対策としてEU政府が100g当りの主要栄養組成の義務表示にしたが、82%の消費者がその表示を正しく読めていないとの調査結果等、新たな表示の必要性についてなどの問題を提起しました。
一方、食品の栄養成分の表示方法については、INRA(フランス国立農業研究所)がNutri-Scoreの公表を2年遡る2011年、一般大衆が理解しやすい栄養表示についての調査結果として、以下の基準を公表しています。
-全ての栄養特性を要約した単一の情報が、栄養素ごとの情報より効果的である。
-数字を提供するだけの表示より、最高評価と最低評価が一目で判別できるカラー表示が効果的である。
-全ての食品に共通の評価基準は各食品カテゴリーに固有の基準より効果的である。
これは、フランス保健省の依頼を受けて実施された研究ですが、Nutri-Scoreはこの理論に基づいて設計されています。
加えて、UFC-Que Choisirが実施した、303種の加工食品に関する調査結果を報告し、カラー表示システムでは、大多数の製品が平均的な評価となったり、あるいは、緑や赤ばかりと極端な評価となるリスクがありますが、調査の結果、全サンプルでの色の分布は緑、薄緑、黄、橙、赤がそれぞれ16%、27%、20%、17%、19%と良好な分布となったこと。また、ある食品群は高評価ばかり、他の食品群は低評価ばかりとなるリスクもありますが、全ての食品群で少なくとも、2つの異なる色で表示され、食品群間の評価だけでなく、食品群内の評価にも使用できると記しています。
UFC-Que Choisirを始めとする消費者団体から大きな支持を得た結果、Nutri-Scoreは2017年、公衆衛生局によりフランスの唯一の公式のFOPLとして承認されました。食品企業のNutri-Scoreの採用は任意ですが、FOPLを実施する場合にはNutri-Scoreを採用しなければならず、また自社製品のすべてに掲載する必要があり、良い評価の商品だけに表示することは出来ません。
欧州の32ヶ国46消費者団体の連合体で、UFC-Que Choisirも加盟している、ベルギーのブリュッセルに本部を持つBEUC(Bureau Européen des Unions de Consommateurs:欧州消費者機構)も、EU共通FOPL 導入論議開始当時からNutri-Score制度を支持しています(注4)。
3. 国際癌研究機関がNutri-Scoreを評価
2021年9月、国際癌研究機関(International Agency for Research Cancer、IARC)は、欧州における多様な人々を対象にコホート研究(疾病要因と発症の関連を調べる観察研究)の結果、Nutri-Scoreの低い食品を多く消費する人々は、癌のリスクが高く、同様に全般的および癌関連の死亡率が高いことを報告しています。そして、この調査結果は、癌やその他の慢性疾患を予防するための戦略の基礎として、Nutri-Scoreによって食品の栄養価を評価することの有効性を裏付けているとしています(注5)。
次回(3)では、フランスでのNutri-Scoreの義務表示化の動きと事業者の反応、およびEUでの前面表示統一への動きについて紹介します。
注:
1. Nutri-Score : The front of pack nutrition labelling scheme recommended in France, 2018, European Commission
2. Nutrition - Pétition pour un étiquetage simplifié - Actualité - UFC-Que Choisir
3. Etiquetage nutritionnel simplifié, Un antidote simple et efficace contre le marketing alimentaire, 2015, UFC-Que choisir
4. Front-of-pack nutrition labelling, BEUC Position, 2019, BEUC
5. The Nutri-Score: A Science-Based Front-of-Pack Nutrition Label, 2019, IARC
南澤 陽一 (消費者ネットジャパン理事 )