近年、FTAやEPAなど国際貿易ルールに、消費者保護に関する約束が含まれるようになってきました。このブログでは、国際貿易ルールの現状と、そのなかに盛り込まれている消費者保護に関わる約束について紹介します。
1. 国際貿易ルールの現状
第二次世界大戦後の国際貿易ルールは、GATT(関税と貿易に関する協定)と、その後身として1995年に発効したWTO協定が、長期にわたり担ってきました。しかしながら、すべての国が差別のない条件で貿易を行うことを目指すWTOは、加盟する全164カ国・地域による「全会一致」が原則であるため合意に至ることが難しく、新しいルール作りや貿易自由化の交渉が停滞しています。
そのWTOを補完する国際貿易ルールが、2国間や複数国間において締結される自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)(注1)です。WTO交渉が停滞する2000年頃から増え、現在、世界に350以上のFTA・EPAが発効しています(注2)。今日では、2018年11月に発効した環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11)や2022年1月に発効した地域的な包括的経済連携協定(RCEP)など、複数国が参加し、経済規模が大きい「メガFTA」と呼ばれる協定もみられます。こうしたFTA・EPAの中心的な規定は、物品やサービスの自由化やルールですが、近年では、環境、競争、電子商取引など、様々な分野に関わる約束が含まれるようになってきました。さらに、ここ数年、消費者保護に関するルールが見られるようになっています。
2. FTA・EPAの電子商取引ルールにおける消費者保護
デジタル経済の進展によって、消費者が直接行う越境取引が拡大しています。そのため、貿易ルールによって国際的にも消費者保護を図ることがますます重要になっています。そこで、FTA・EPAの電子商取引に関するルールでは、締約国に対し、オンライン上で消費者を保護するための義務を締約国に対して定めています。例えば、RCEPなどEPA・FTAの締約国は、自国内で個人情報保護法を整備しなければなりません。また、TPP11や日EU・EPAは、締約国に対し、事業者が消費者などに不要なセールスなどの電子メールを送信しないよう、対策をとることを求めています。
3. FTA・EPAにおける一般的な消費者保護ルール
TPP11は、オンラインだけではなく、オフラインも含めた一般的な消費者保護ルールをはじめて設けました。締約国に対して、消費者保護法やその他詐欺的又は欺まん的な商業活動を禁止する法令の制定と維持を求めています(注3)。さらに、2020年7月発効の米カナダメキシコ自由貿易協定では、さらに進んだ内容であり、締約国間で、消費者苦情やその他の執行情報の交換を行うことも規定しています。
これまでもFTA・EPAにおいて、環境や労働といった新たな分野の規定が含められると,その後のFTA・EPAにも同様の規定が設けられることが繰り返されてきています。消費者保護に係る規定も、今後のEPA・FTAに広がる可能性があります。そうした規定に基づいて、締約国内で消費者保護法がさらに進展することが期待されます。
注:
1. 自由貿易協定(FTA)は、締約国・地域間で、物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定を指す、一般的な用語です。日本政府は、自国が参加するFTAを特に経済連携協定(EPA)と称し、ビジネス環境整備などのより広い分野での協力等を含むことを強調しています。
2. WTO加盟国によるWTOへの通報件数。
WTO, Reginal Trade Agreement Database, http://rtais.wto.org/UI/PublicMaintainRTAHome.aspx.
3. 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定(第16.6条(消費者の保護)第3項)の規定がTPP11によって発効しました。
国松麻季(消費者ネットジャパン正会員)
1. 国際貿易ルールの現状
第二次世界大戦後の国際貿易ルールは、GATT(関税と貿易に関する協定)と、その後身として1995年に発効したWTO協定が、長期にわたり担ってきました。しかしながら、すべての国が差別のない条件で貿易を行うことを目指すWTOは、加盟する全164カ国・地域による「全会一致」が原則であるため合意に至ることが難しく、新しいルール作りや貿易自由化の交渉が停滞しています。
そのWTOを補完する国際貿易ルールが、2国間や複数国間において締結される自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)(注1)です。WTO交渉が停滞する2000年頃から増え、現在、世界に350以上のFTA・EPAが発効しています(注2)。今日では、2018年11月に発効した環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11)や2022年1月に発効した地域的な包括的経済連携協定(RCEP)など、複数国が参加し、経済規模が大きい「メガFTA」と呼ばれる協定もみられます。こうしたFTA・EPAの中心的な規定は、物品やサービスの自由化やルールですが、近年では、環境、競争、電子商取引など、様々な分野に関わる約束が含まれるようになってきました。さらに、ここ数年、消費者保護に関するルールが見られるようになっています。
2. FTA・EPAの電子商取引ルールにおける消費者保護
デジタル経済の進展によって、消費者が直接行う越境取引が拡大しています。そのため、貿易ルールによって国際的にも消費者保護を図ることがますます重要になっています。そこで、FTA・EPAの電子商取引に関するルールでは、締約国に対し、オンライン上で消費者を保護するための義務を締約国に対して定めています。例えば、RCEPなどEPA・FTAの締約国は、自国内で個人情報保護法を整備しなければなりません。また、TPP11や日EU・EPAは、締約国に対し、事業者が消費者などに不要なセールスなどの電子メールを送信しないよう、対策をとることを求めています。
3. FTA・EPAにおける一般的な消費者保護ルール
TPP11は、オンラインだけではなく、オフラインも含めた一般的な消費者保護ルールをはじめて設けました。締約国に対して、消費者保護法やその他詐欺的又は欺まん的な商業活動を禁止する法令の制定と維持を求めています(注3)。さらに、2020年7月発効の米カナダメキシコ自由貿易協定では、さらに進んだ内容であり、締約国間で、消費者苦情やその他の執行情報の交換を行うことも規定しています。
これまでもFTA・EPAにおいて、環境や労働といった新たな分野の規定が含められると,その後のFTA・EPAにも同様の規定が設けられることが繰り返されてきています。消費者保護に係る規定も、今後のEPA・FTAに広がる可能性があります。そうした規定に基づいて、締約国内で消費者保護法がさらに進展することが期待されます。
注:
1. 自由貿易協定(FTA)は、締約国・地域間で、物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定を指す、一般的な用語です。日本政府は、自国が参加するFTAを特に経済連携協定(EPA)と称し、ビジネス環境整備などのより広い分野での協力等を含むことを強調しています。
2. WTO加盟国によるWTOへの通報件数。
WTO, Reginal Trade Agreement Database, http://rtais.wto.org/UI/PublicMaintainRTAHome.aspx.
3. 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定(第16.6条(消費者の保護)第3項)の規定がTPP11によって発効しました。
国松麻季(消費者ネットジャパン正会員)