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ミツバチの保護を目的とした農薬の規制について〜 欧州と日本の取り組みを比較して

8/19/2021

 
ミツバチは、世界中で、樹・野菜の授粉、ハチミツの生産等に活用されている、非常に重要な昆虫です。しかし近年、ミツバチの減少が問題となり、EUでは、ミツバチ保護のために一部の農薬の使用を制限し、欧州の消費者団体はその措置を評価しています。その背景を調べ、日本の実情とも比較してみました。

EU司法裁判所は2021年5月、ミツバチに危害を加えるネオニコチノイド系農薬の使用を規制する欧州委員会の決定に法的誤りはないと判断し、控訴を棄却しました。この訴訟は、2013年に欧州委員会による、イミダクロプリドなど3種類のネオニコチノイド系農薬の屋外での使用禁止措置について、当該農薬の屋外での使用を禁止すると、農家がより危険な農薬を使わざるを得なくなるとして、農薬と種苗のメジャーであるバイエル社とシンジェンタ社が、禁止の差し止めを求めていたものです。

欧米では、ミツバチが越冬できずに消失したり、働き蜂が女王蜂や幼虫などを残したまま突然いなくなりミツバチの群が維持できなくなるという、「蜂群崩壊症候群」(以下、CCD)が多く報告されており、CCDに危機感を抱いている欧州の環境団体や消費者団体はこの決定を歓迎しています。フランスの消費者同盟連合(UFCク・シュワジール;以下、UFC 〜注1)は、1998年に問題を提起し、この農薬の使用禁止を訴えてきたので、今回の判決は8年間の法廷闘争を経た、ミツバチ保護のための素晴らしいニュースだと述べています。CCD を含むミツバチの減少の主な要因として、「ダニ等の寄生虫や害虫」「病気」「栄養不足」「農薬」「周辺環境の変化」「異常気象」などが挙げられており、いくつかの要因が複合的に影響していると考えられています。

このミツバチの減少の対策として、欧州委員会は2013年、それまで使用が許可されていたネオニコチノイド系農薬のイミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサムについて、ミツバチに有害であるとして一時的に屋外での使用を禁止し、更に2018年12月から、これを正式に禁止しています。

農水省によると、欧米では農薬は、種子の表面に農薬を付着させる「種子処理」や、粒状の農薬を作物ではなく土壌に散布する「土壌処理」での使用が一般的ですが、種子にコーティングされた農薬が剥がれ落ちたり、土壌処理の際に粒状の農薬が壊れたりして、農薬の混じった土が粉塵状に巻き上げられ、花に蜜や花粉を集めに来ていたミツバチに付着し被害が生じる可能性があります。

このような懸念から、欧州委員会から依頼を受けたEFSA(欧州食品安全機関)は、この3 種類のネオニコチノイド系農薬の評価を実施、その結果を受理した欧州委員会が、それまで種子処理や土壌処理に使用可能であったこれらの農薬について、2013年、穀物や、ミツバチが好んで花を訪れる作物に関して、種子処理、土壌処理または直接的な散布による使用を禁止したものです。

欧州委員会は、この判断は「予防原則(precautionary principle)」に基づくものとしています。欧州委員会によれば「予防原則」とは、環境または人の健康への危険に関する科学的証拠が不確実であっても、危険性が高い場合には意思決定者が対策や規制を採用することができるとされています。またEU司法裁判所は、予防原則について、経済的利益よりも公衆衛生、安全および環境の保護に関連する要件を優先すると述べています。

一方日本では、7種のネオニコチノイド系農薬が承認されており、それらはカメムシや、アブラムシなどの害虫に優れた防除効果があるので、稲、果樹、野菜などの害虫防除に不可欠なものとなっています。しかしながら、日本ではネオニコチノイド系農薬を、水稲の育苗箱に使用したり、作物の茎葉へ散布したりするのが一般的で、欧米のように粉塵が広範囲に巻き上がるような方法の播種は行っておらず、粉塵についての懸念はほとんどないため、使用の制限はありません。
他方、日本でもCCDには至らなくても、ミツバチの被害は発生しています。被害の発生は、水稲のカメムシを防除する時期に多く、巣箱の周辺で採取された死んだミツバチからはカメムシ防除に使用する殺虫剤が検出されたことから、ミツバチが、それらの殺虫剤を直接浴びた可能性が高いと考えられています。

そこでミツバチに対する毒性が比較的強い農薬には、その旨を注意事項として、ラベルに表示されています。加えて、養蜂家は季節によって花のある地域へと巣箱を移動させることがあるので、農薬を使用する農家と養蜂家との間で、巣箱の位置および設置時期や、農薬の散布時期などの情報を交換し、巣箱を退避させるなどの対策をとっています。
さて、ネオニコチノイド系農薬の毒性についてですが、昆虫には高い毒性を持ちますが、人や哺乳類には毒性が低い、いわゆる「選択毒性」を有しています。それ故、他の殺虫剤に比べて人に対する毒性が弱いので、農業従事者や、ひいてはその農産物を食べる人の健康影響が小さいとされ、また、水生生物に対する毒性も弱く、水田の下流に位置する河川や養魚池などへの影響を心配する必要もないとされています。加えて、油脂にとけにくいため、畜産物の脂肪中への残留が少ない等の利点があります。

話をまた欧州に戻します。EUでは前述したように、2013年以降、3種のネオニコチノイド農薬の屋外散布を禁止しているのですが、農家はどのように対応しているのでしょうか。調査の結果では、対象の農産物や国の違いにより対応は異なるものの、使用を禁止されていない他のネオニコチノイド系農薬、またはピレステロイド系農薬で処理された種子に切替えた農家が多いようです。

また、EUには農薬の緊急認可制度があり、被害が生じても他に合理的な手段がないと判断した場合には、120日以内に限って使用が認められており、EUの加盟国、ルーマニア、ブルガリア、リトアニア、ハンガリー、フィンランド、ラトビア、エストニアは主要作物への緊急認可を何回も申請しているという事実があり、使用禁止措置後もネオニコチノイド系農薬の使用量は減少していないようです。

一方、フランスでも2020年12月、アブラムシの大きな被害に遭っているサトウキビ農家に対し、憲法評議会は、ネオニコチノイド系農薬を3年間に限り使用することを承認しました。これに対してもUFCは、「ネオニコチノイド系農薬はアブラムシの防除に有効ではあるが、テントウムシ等の、いわゆる生物農薬(天敵など)の検討をすべきである」旨の専門家の意見を紹介し、本当に他の選択肢はないのかと、疑問を投げかけています。

欧州の予防原則を適用したネオニコチノイド系農薬の使用規制に比べると、日本の規制は緩いように思えます。しかし今回紹介したように、EU諸国でも、農業の現実はそれ程生易しいものではないようです。また、日本の夏は高温多湿で、平均気温は欧州と比較して10℃ほど高いため、虫の被害は、極めて厳しい状況にあることは間違いありません。将来的には地球の温暖化によって、ますます厳しい状況になる可能性もあります。ミツバチの被害とその対策としての農薬の規制を通して、持続可能な農業、環境にやさしい農業のあるべき姿を、考えていきたいと思います。
                                                                                                                                         
                                      (消費者ネットジャパン理事 南澤)
 

注:
1. 
UFCク・シュワジール(UFC-Que-choisir)〜1951年に設立されたフランスを代表する消費者団体。会員数138,000人、傘下にフランス全土で140の団体を有する。ハイテク、家電、自動車、健康、保険、食品、農業、環境など幅広いテーマを扱う。消費者の権利が侵された場合には、訴訟で対応する。
 
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主な参考文献:
・Pesticides tueurs d’abeilles - Une interdiction enfin définitive ! - Actualité - UFC-UFC-Que Choisir
・Ré-autorisation des néonicotinoïdes - Vraiment pas d’alternative ? - Actualité - UFC-UFC-Que Choisir
・General Court of the European Union, PRESS RELEASE No 68/18, Luxembourg, 17 May 2018
・ DÉCISION N° 2020-809 DC DU 10 DÉCEMBRE 2020, CONSEIL CONSTITUTIONNEL
・The precautionary principle, Definitions, applications and governance, December 2015, European Perliament
・農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組, 2016.11月改訂, 農林水産省
・J. Kathage et al., Pest Manag Sci 2018; 74: 88–99

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